水道点検のデジタル化が進んでいるらしい。
どうやら「人が歩き回って点検する」という、いかにも昭和の職人仕事のような光景が、いまや令和のテクノロジーによって静かに置き換わりつつあるのである。
デジタル化の一例として挙げられているのが、なんとドローンを使った調査である。ドローンといえば、これまで空撮映像や宅配ピザの空中輸送といった、どちらかというと「ワクワク系」の用途が注目されてきた。しかし、今回は水道管の点検という、どちらかといえば地味でコツコツした現場仕事に参戦なのである。
しかし考えてみれば、ドローンが配管を点検するというのはなかなか理にかなっている。もし私が配管の中を点検する作業員だったとして、天井裏の暗闇や人が入れない隙間のパイプを見ろと言われたら、「これドローンくんにお願いできませんか?」とつい言いたくなるはずである。ドローンは文句ひとつ言わず、クモの巣にも引っかからず、さらには高所でも落ちる心配なく、スイスイと飛び回る。まるで“空飛ぶ新人アルバイト”が誕生したかのようである。
そして興味深いのは、AIを用いた漏水検知である。最初に聞いたときは「AIってそんなに万能だったっけ?」と首をひねった。AIが得意なのは画像解析や音声認識など人間の感覚を模した処理である。だが漏水というのは“水が漏れている”という現象である。どう使うのか?
そこで思い至ったのが、ドローンとAIのコンビである。例えばドローンが飛び回って配管の映像を撮影し、その映像をAIが分析する。表面のサビ具合や配管の変形、小さなひびなど、これまで人間の熟練職人が“経験と勘”で判断していた微妙な変化を、AIが膨大なデータから判定するのだろう。AIにとっては、ひび割れた配管も、変色したパイプも“画像の特徴量のひとつ”にすぎないのだ。まるで「配管の顔色を読む名医」のように、どこが悪いかを診断してくれるという寸法である。
さらに進んだAIであれば、「ここは漏水してはいないが、このまま放置すると3か月後に泣き始めるパイプである」という未来予測までしてくれそうである。もはや“予言師AI”の域である。水道インフラの管理者からすれば、突然水道管が破裂して道路が噴水になる、というありがたくないサプライズを避けるためにも、この予測能力は非常にありがたい。
AIの使い道は本当に広い、とあらためて実感する。昔は「AIってチェスとか囲碁だけでしょ?」といった扱いだったが、気づけば水道管のひび割れまで見抜くようになっている。いずれは「あなたの家の蛇口、そろそろ締め方が雑になってきていますよ」と生活習慣まで指導してくる日も来るかもしれない。
ともあれ、水道点検のデジタル化が進むことによって、これまで人が汗を流していた重労働を機械とAIが肩代わりしてくれるようになるだろう。私たちはもしかすると、蛇口から出る一杯の水の裏側で、ドローンとAIがせっせと働く未来を迎えているのかもしれない。飲み水一杯の裏に、ハイテクが詰まっているのである。
参考情報
2025/12/01 日本経済新聞:上下水道点検、デジタル化 国交省支援「27年度までに全国で」

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