東京海上日動が社員に「介護手当」として一時金20万円を支給するらしい。20万円と聞くと、思わず「豪華温泉旅行にでも行けそうだ」と思うが、実際にはもっと現実的かつ切実な話である。介護の現場は、華やかな旅行どころか、日々が、延々と続くマラソンのようなものだ。スタートもゴールもなく、ペース配分を間違えると心身ともにバテてしまう。
自分の親が祖父母を介護している姿を見たことがあるが、あれは本当に過酷である。少し距離があったので車で移動し、病院の予約、介護用品の買い出し、そして会話相手。まるで“24時間営業のファミレス”で、しかも店員は自分ひとりという状況だ。そんな中での20万円は、オアシスのような一滴の恵みである。介護ベッド、車いす、手すり、介護食――どれも思いのほか高額で、財布のダメージは深刻。だからこそ、会社がこうした支援を行うのは「社員を支える会社」から「社員の家族まで支える会社」へと進化した証拠ともいえる。
この動きの背景には、いわゆる「2025年問題」がある。団塊の世代が75歳を迎え、介護を必要とする人が急増している。そしてその子ども世代は、まさに働き盛りの40〜50代。職場では中間管理職として板挟みに遭い、家庭では介護と育児で板挟み。つまり“ダブル板挟み構造”の完成である。まるでサンドイッチの具のように、上下から圧をかけられているのだ。
過去に読んだ本で、「これからは高齢者中心の政策が進むだろう」とあったが、それも現実味を帯びてきた。何せ、票の数でいえば高齢者が圧倒的多数である。政治家が高齢者に優しい政策を掲げるのは、もはや生存戦略といってよい(今回は一企業の話だが)。だが、少子化対策も並行して進めないと、未来の担い手がいなくなる。高齢者中心の政策だけでは、まるで前輪だけが回転して後輪が外れている自転車のように、前には進めないし、いつかは壊れてしまう。
とはいえ、今回の東京海上日動の取り組みは、介護にスポットを当て、少しでも働きやすくする試みなのだろう。介護と仕事を両立する時代が確実にやってきている。これからは「育児と仕事の両立」ではなく、「介護と仕事の両立」もキーワードとなる。もはや会社の福利厚生は、社員本人だけでなく「家族をどう支えるか」へと広がる時代に突入したのである。
参考情報
2025/10/19 日本経済新聞:介護離職防止へ一時金 東京海上日動が20万円


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