はじめに
今回も、応用情報技術者試験の過去問を解いていきます。
今回のテーマは、ゲーム理論における「ナッシュ均衡」です。
ゲーム理論では、複数のプレイヤーが相手の行動を考えながら、自分にとって有利な戦略を選びます。
今回の問題では、
- ナッシュ均衡
- ゼロ和ゲーム
- マクシミン原理
- ミニマックス
の違いを理解しているかがポイントになります。
言葉だけを見ると少し難しそうですが、それぞれ「何を基準に戦略を選んでいるのか」を整理すれば、かなり分かりやすくなります。
問題
問73
ゲーム理論における“ナッシュ均衡”の説明はどれか。
選択肢
ア
一部プレイヤーの受取が、そのまま残りのプレイヤーの支払となるような、各プレイヤーの利得(正負の支払)の総和がゼロとなる状態
イ
戦略を決定するに当たって、相手側の各戦略(行動)について、相手の結果が最大利得となる場合同士を比較して、その中で相手の利得を最小化する行動を選択している状態
ウ
戦略を決定するに当たって、自身の各戦略(行動)について、自身の結果が最小利得となる場合同士を比較して、その中で自身の利得を最大化する行動を選択している状態
エ
非協力ゲームのモデルであり,相手の行動に対して最適な行動をとる行動原理の中で,どのプレイヤーも自分だけが戦略を変更しても利得を増やせない戦略の組合せ状態
解答
正解:エ
解説
ナッシュ均衡とは、
他のプレイヤーの戦略が変わらないとしたとき、どのプレイヤーも自分だけ戦略を変更して利得を増やすことができない状態
のことです。
ポイントは、
「全員が一番得をしている状態」ではない
ということです。
あくまで、
「自分だけ戦略を変えても、今より良くならない」
という状態です。
この条件を満たしているのが選択肢エです。
ナッシュ均衡のイメージ
たとえば、AさんとBさんがそれぞれ戦略を選んでいるとします。
現在の組合せから、
- Aだけ戦略を変更しても、Aの利得は増えない
- Bだけ戦略を変更しても、Bの利得は増えない
のであれば、その戦略の組合せはナッシュ均衡です。
つまり、
「一方的に戦略を変更しても得をしない安定した状態」
と考えると分かりやすいでしょう。
囚人のジレンマで考えてみる
ナッシュ均衡の代表的な例として、「囚人のジレンマ」があります。
次のような利得を考えます。
| B:黙秘 | B:自白 | |
|---|---|---|
| A:黙秘 | A:-1、B:-1 | A:-10、B:0 |
| A:自白 | A:0、B:-10 | A:-5、B:-5 |
数字が大きいほど有利だと考えます。
Aから見てみる
Bが黙秘した場合、
- Aも黙秘:-1
- Aが自白:0
なので、Aは自白した方が有利です。
Bが自白した場合でも、
- Aが黙秘:-10
- Aも自白:-5
なので、やはりAは自白した方が有利です。
Bについても同じです。
そのため、
A:自白、B:自白
がナッシュ均衡になります。
この状態からAだけ黙秘に変更すると、
- -5 → -10
となって損をします。
Bだけ変更しても同じです。
そのため、どちらも単独で戦略を変更して利得を改善できません。
他の選択肢が間違いな理由
選択肢ア
選択肢アは、ゼロ和ゲーム(ゼロサムゲーム)の説明です。
ゼロ和ゲームでは、すべてのプレイヤーの利得を合計すると0になります。
たとえば、
| プレイヤーA | プレイヤーB | 合計 |
|---|---|---|
| +10 | -10 | 0 |
| -5 | +5 | 0 |
という関係です。
誰かが得た分だけ、別の誰かが損をするイメージです。
したがって、ナッシュ均衡の説明ではありません。
選択肢イ
選択肢イは、ミニマックスの考え方です。
ポイントは、
相手の最大利得を最小化する
ことです。
相手が得られる可能性のある最大の利益を比較し、その利益をできるだけ小さくするように自分の戦略を選びます。
ナッシュ均衡とは「戦略の組合せが安定しているか」という考え方なので、異なります。
選択肢ウ
選択肢ウは、マクシミン原理の説明です。
マクシミンでは、
自分が得られる最小利得を最大化する
戦略を選びます。
簡単に言えば、
「最悪の事態になったとしても、できるだけ損が小さい戦略を選ぶ」
という守り重視の考え方です。
問題の用語解説
ゲーム理論
ゲーム理論とは、複数の意思決定者がいる状況で、相手の行動を考慮しながら自分の戦略を決定する考え方です。
「ゲーム」と名前が付いていますが、テレビゲームの話ではありません。
たとえば、
- 企業同士の価格競争
- 入札
- 市場への新規参入
- 広告戦略
- 国同士の交渉
などにもゲーム理論の考え方を利用できます。
「相手がこうするなら、自分はどうするか」を考える理論だと理解するとよいでしょう。
ナッシュ均衡
ナッシュ均衡は、数学者ジョン・ナッシュによって定式化された、非協力ゲームにおける代表的な均衡概念です。
覚えるべきポイントは非常にシンプルです。
自分だけ戦略を変更しても、利得を改善できない。
「誰も動けない」という意味ではありません。
戦略を変更すること自体はできます。
しかし、
自分だけ変更しても今より得にならない
というところが重要です。
ゼロ和ゲーム
ゼロ和ゲームとは、参加者全体の利得の合計が0になるゲームです。
一方の利益が、もう一方の損失になります。
ナッシュ均衡とは違い、
利得の合計がどうなっているか
に注目する考え方です。
マクシミン原理
マクシミン原理では、それぞれの戦略について「最悪の場合の利得」を考えます。
その中から、
最悪の場合の利得が最も大きくなる戦略
を選びます。
言葉を分解すると覚えやすいです。
Max(最大化)+ Minimum(最小利得)
つまり、
「最小利得を最大化する」
ということです。
ミニマックス
ミニマックスは、
相手の最大利得を最小化する
という考え方です。
こちらも言葉を分解すると、
Minimum(最小化)+ Maximum(最大利得)
と考えられます。
マクシミンと非常に似ているので、試験では注意が必要です。
ナッシュ均衡・マクシミン・ミニマックスの違い
今回の問題では、次の表を覚えておくと整理しやすくなります。
| 用語 | 考え方 | 覚え方 |
|---|---|---|
| ゼロ和ゲーム | プレイヤー全体の利得の合計が0 | 利得の「合計」を見る |
| マクシミン | 自分の最小利得を最大化 | 自分の最悪をできるだけ良くする |
| ミニマックス | 相手の最大利得を最小化 | 相手の最高をできるだけ抑える |
| ナッシュ均衡 | 誰も単独で戦略変更して利得を改善できない | 戦略の「組合せ」を見る |
特にナッシュ均衡だけは、
「どの戦略を選ぶか」よりも、「戦略の組合せが安定しているか」
を見るところがポイントです。
体系的位置づけ
応用情報技術者試験のシラバス上では、ゲーム理論はおおむね次の位置付けになります。
ストラテジ系
↓
企業と法務
↓
OR・IE
↓
ゲーム理論
ゲーム理論は、数学的・論理的な考え方を使って意思決定を分析するOR(Operations Research)の一つとして整理されています。
関連する用語として、
- ゼロ和2人ゲーム
- マクシミン原理
- ミニマックス
- ナッシュ均衡
などがあります。
SWOT分析やPPM、ファイブフォース分析などもストラテジ系で出題されますが、シラバス上ではゲーム理論とは別の分類になる点には注意しましょう。
今回の問題の重要ポイント
今回の問題では、次の3点を押さえておきましょう。
① ナッシュ均衡は「一方的に変更しても得をしない」
最も重要なのはここです。
自分だけ戦略を変更しても、利得を改善できない
この表現を覚えておけば、選択肢からかなり見つけやすくなります。
② マクシミンとミニマックスを区別する
似ていますが、見る対象が違います。
マクシミン
自分の最小利得を最大化する
ミニマックス
相手の最大利得を最小化する
「自分を見るのか、相手を見るのか」を意識すると区別しやすくなります。
③ ゼロ和ゲームとナッシュ均衡は見るポイントが違う
ゼロ和ゲームでは、
利得の合計
を見ます。
一方、ナッシュ均衡では、
戦略の組合せ
を見ます。
同じゲーム理論の用語でも、考えているものが違います。
まとめ
今回は、ゲーム理論におけるナッシュ均衡について確認しました。
ナッシュ均衡とは、
他のプレイヤーの戦略が変わらないとき、どのプレイヤーも自分だけ戦略を変更して利得を改善できない戦略の組合せ
です。
今回の問題では、
正解は「エ」
となります。
また、試験では次の4つをセットで整理しておくと便利です。
| 用語 | 一言で覚える |
|---|---|
| ゼロ和ゲーム | 利得の合計が0 |
| マクシミン | 自分の最悪を最大化 |
| ミニマックス | 相手の最高を最小化 |
| ナッシュ均衡 | 自分だけ変えても得しない |
ナッシュ均衡は、一見すると難しそうな用語ですが、
「自分だけ作戦を変えても得しない状態」
と覚えておけば、試験ではかなり判断しやすくなります。


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