目次
はじめに
今回も、応用情報技術者試験の過去問を解いていきます。
今回扱うのは、
待ち行列理論(M/M/1モデル)の問題です。
ATMやレジの行列など、現実のサービス設計でも使われる理論なので、理解しておくと面白い分野です。
問題
問2
ATM(現金自動預払機)が1台ずつ設置してある二つの支店を統合し,統合後の支店にはATMを1台設置する。統合後のATMの平均待ち時間を求める式はどれか。ここで,待ち時間はM/M/1の待ち行列モデルに従い,平均待ち時間にはサービス時間を含まず,ATMを1台に統合しても十分に処理できるものとする。
〔条件〕
(1) 統合後の平均サービス時間:Ts
(2) 統合前のATMの利用率:両支店ともρ
(3) 統合後の利用者数:統合前の両支店の利用者数の合計
ア ρ / (1 − ρ) × Ts
イ ρ / (1 − 2ρ) × Ts
ウ 2ρ / (1 − ρ) × Ts
エ 2ρ / (1 − 2ρ) × Ts
解答
エ
解説
① M/M/1モデルの平均待ち時間
M/M/1の平均待ち時間(サービス時間を含まない)は
です。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| ρ | 利用率 |
| Ts | 平均サービス時間 |
| Wq | 平均待ち時間 |
② ATM統合前
支店A
利用率
支店B
利用率
つまり次の状態です。
| 支店 | ATM台数 | 利用率 |
|---|---|---|
| A | 1 | ρ |
| B | 1 | ρ |
③ ATM統合後
利用者数は合計になるので
到着率は2倍
になります。
サービス時間は変わらないので
利用率は
になります。
| 状態 | 利用率 |
|---|---|
| 統合前 | ρ |
| 統合後 | 2ρ |
④ 平均待ち時間の計算
平均待ち時間の式
これに
を代入すると
となります。
したがって正解は
エ
です。
問題文の但し書きの理由
今回の問題には、次の 但し書き が書かれていました。
- 平均待ち時間にはサービス時間を含まない
- ATMを1台に統合しても十分処理できるものとする
この但し書きが書かれている理由は、問題の解き方を一意に決めるためです。
もう少し具体的に説明します。
1 「平均待ち時間にはサービス時間を含まない」の理由
待ち行列理論では、似た量が2つあります。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| 待ち行列で待つ時間 | |
| システムにいる時間(待ち時間+サービス時間) |
これらは
の関係があります。
もし問題文に
「平均待ち時間」
としか書いていないと、
- を求めるのか
- を求めるのか
解釈が2通りになってしまいます。
そこで
サービス時間を含まない
と書くことで
を求める問題だと明確にしています。
2 「ATMを1台に統合しても十分処理できる」の理由
M/M/1モデルでは
が 1未満でないとシステムが成立しません。
もし
なら
- 客が来る速度 ≥ 処理速度
なので
待ち行列が無限に伸びます。
つまり
平均待ち時間は定義できません。
そこで
十分処理できる
と書くことで
であることを保証しています。
小まとめ
今回の但し書きの役割は次の2つです。
- 求める量を明確にする
(待ち時間 ) - M/M/1モデルが成立する条件を保証する
(利用率 )
つまり
問題を数学的に一意に解けるようにするため
に書かれています。
利用率と待ち時間の関係
待ち行列では
という関係があります。
利用率と待ち時間の関係
| 利用率ρ | 待ち時間 |
|---|---|
| 0.3 | 0.43Ts |
| 0.5 | 1Ts |
| 0.7 | 2.33Ts |
| 0.8 | 4Ts |
| 0.9 | 9Ts |
利用率が高くなると
待ち時間が急激に増えるのが特徴です。
利用率と待ち時間の関係のグラフ

問題の用語解説
待ち行列理論
待ち行列理論は
1909年
デンマークの数学者
A.K.エルラン
が電話交換機の研究で発表した理論です。
現在では
- 通信ネットワーク
- サーバー設計
- 交通工学
など幅広く使われています。
M/M/1モデル
待ち行列理論の基本モデル。
意味は次の通りです。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| M | 到着がランダム(ポアソン分布) |
| M | サービス時間がランダム(指数分布) |
| 1 | 窓口が1つ |
例
- ATM
- レジ
- 受付
- サーバー処理
などに使われます。
ちなみに、「M/M/1」という表記は一般に「ケンドール記法」と呼ばれ、
他にも「M/M/c」、「M/G/1」などの表記があります。
利用率(ρ)
利用率は
で定義されます。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| λ | 到着率 |
| Ts | サービス時間 |
利用率とは
装置がどれくらい忙しいか
を表します。
例
| 利用率 | 意味 |
|---|---|
| 0.5 | 半分の時間稼働 |
| 0.8 | ほぼフル稼働 |
| 1.0 | 処理能力限界 |
この問題の体系的位置づけ
この問題は
応用情報技術者試験の
テクノロジ系
システム性能評価
の分野です。
その中の
待ち行列理論
に該当します。
応用情報
└ システム性能
└ 待ち行列理論
└ M/M/1モデル
現実での利用例
待ち行列理論は実際に
- ATM設計
- スーパーのレジ数
- コールセンター
- Webサーバー
- 空港の保安検査
などで使われています。
待ち行列理論の具体的使用例(WebサーバーでのM/M/1モデル)
待ち行列理論は、実際のシステム設計にも使われています。
ここでは、Webサーバーを例に M/M/1モデルがどのように使われるのかを見ていきます。
Webサーバーの処理の流れ
Webサービスでは、ユーザーからのリクエストは次のように処理されます。
ユーザー → HTTPリクエスト → Webサーバー → 処理 → 応答
これを待ち行列として表すと次のようになります。
リクエスト → [待ち行列] → CPU処理 → 完了
つまり
- リクエストがランダムに到着する
- サーバーが順番に処理する
という構造になります。
このような構造は M/M/1モデルとして表すことができます。
M/M/1モデルのパラメータ
Webサーバーにおいて、M/M/1モデルのパラメータは次のように対応します。
| 待ち行列理論 | Webサーバー |
|---|---|
| λ | 1秒あたりのリクエスト数 |
| μ | 1秒あたりの処理能力 |
| Ts | 1リクエストの処理時間 |
| ρ | CPU利用率 |
利用率は次の式で表されます。
または
Webサーバーの性能予測に使う
M/M/1モデルを使うと、サーバーの待ち時間を予測できます。
例えば次のサーバーを考えます。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 平均処理時間 | 0.05秒 |
| 処理能力 | 20リクエスト/秒 |
つまりです。
アクセス数が10リクエスト/秒の場合
利用率
平均待ち時間は
なので
つまり
待ち時間は50ms程度です。
※msは「ミリセカンド(ミリ秒)」という単位で、1秒=1000ミリ秒です。
アクセスが増えた場合
アクセスが増えて
になると
待ち時間は
つまり
200ms待ちになります。
さらにアクセスが増えると
になると
待ち時間
つまり
450ms待ちになります。
利用率と待ち時間の関係
この結果を整理すると次のようになります。
| 到着率 | 利用率 | 待ち時間 |
|---|---|---|
| 10 | 0.5 | 0.05秒 |
| 16 | 0.8 | 0.2秒 |
| 18 | 0.9 | 0.45秒 |
ここで重要なのは
アクセスが少し増えただけで待ち時間が急増する
という点です。
なぜサーバーの利用率を70%程度に抑えるのか
M/M/1モデルの待ち時間の式は
です。
この式を見ると分かるように、利用率が1に近づくと、分母の
が小さくなり、待ち時間は急激に増加します。
実際のシステム設計では、次のような目安が使われます。
| 利用率 | 状態 |
|---|---|
| 50% | 余裕がある |
| 70% | 通常運用 |
| 80% | 混雑し始める |
| 90% | レスポンス悪化 |
そのため、実務では
CPU利用率を70%程度に抑える
設計がよく行われます。
これは
- 突発的なアクセス増加への余裕を持たせる
- 待ち時間の急激な増加を防ぐ
ためです。
このように、待ち行列理論は
システム性能設計の基本理論
として利用されています。
今回の問題の本質
この問題が示している重要な教訓
この問題の本質は次の点にあります。
- 待ち時間は 利用率で決まる
- 利用率が少し上がるだけで 待ち時間は急激に増える
- 利用率が1に近づくと 待ち時間は発散する
つまり、この問題は
待ち行列理論における「利用率の重要性」
を理解するための典型的な問題と言えます。
まとめ
最後に、今回の問題を振り返ります。
- M/M/1の平均待ち時間
- ATM統合により
利用率が2倍
- 平均待ち時間
- よって答えは
エ
参考情報
応用情報技術者試験_過去問


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